ブレーキングマイスターへの道・ブレーキングテクニックのすべてがわかる

【STEP2】「止まるブレーキ」&「曲がるブレーキ」

 曲がるブレーキング

タイヤのタテとヨコの関係

当然ですが、タイヤのグリップ力には限界があります。フルブレーキの状態にあるとき、タイヤのグリップ力すべてを止まるため(タテのグリップ)に使っているため、ステアリングを切っても進行方向は変わりません。アンダーステアを出さずにターンインを開始するためには、ブレーキを戻してヨコ方向に使えるグリップ力を確保してから、ステアリング操作を行う必要があります。

このように減速を伴うコーナーの進入では、ブレーキ操作による「タテのグリップ」と、ステアリング操作による「ヨコのグリップ」を、いかにタイヤの限界を超えないようにしながらオーバーラップしていくかがポイントとなります。
ですので、コーナリング中におけるグリップ状態の理想形は、コーナー進入区間のどの部分を輪切りにしても、タイヤの持つグリップ力を100%使い切っていること = 速いコーナリングの実現という図式になります。

そのためには、タイヤのタテとヨコのグリップ関係をきちんと理解しながらコントロールする必要があります。その指標となるのが、『タテ + ヨコ = 10までの法則』です。

『タテ + ヨコ = 10までの法則』とは、ステアリングを切ってコーナーを曲がっていくために、ブレーキを戻してタテ方向に使っていたグリップ配分をヨコ方向に移行したり、逆にブレーキングで短い距離で止まるためには、ステアリングを戻して、ヨコに使っていたグリップをタテに使うためのグリップに移行して、常にタイヤの限界を超えない走りを目指す方法です。

もう少し具体的に説明しましょう。
たとえば筑波サーキットの1コーナーのような、フルブレーキングを伴う右コーナーを想像してください。自分が装着しているタイヤがグリップする限界を10と仮定します。
まずは、止まるブレーキでタテのグリップのみ10を使って、短い区間で減速します。そこからコーナーを曲がるためにブレーキを9・8・7・・・・と少しずつ戻していきます。そして、曲がるブレーキで説明したタイムラグを計算したのち、さきほどブレーキを戻してヨコに使えるグリップを確保したぶんだけ、コーナーのRに従って1・2・3・・・・・とステアリングを右に切る量を徐々に増やしていきます。結果、その合計が常に10を超えないように、タテとヨコをオーバーラップするのが、『タテ + ヨコ = 10までの法則』の考え方なのです。

曲がるブレーキングを説明するとき、よく「ブレーキを残す」と言いますよね。正しくは、「クリッピングポイントまでブレーキを踏んで前荷重を残したまま、曲がる方向にステアリングを切る」ということです。『タテ + ヨコ = 10までの法則』でグリップの関係をコントロールできると、前荷重の曲がりやすい状況を作れ、アレッと驚くぐらいクルマはよく曲がるようになります。まさに魔法のグリップです。
曲がるブレーキングの目的は、タイヤのタテとヨコのグリップをうまくミックスさせて、ハイスピードでも、アンダーステアを出さずに曲がることです。そして、これができると、同時に有効な荷重移動も発生して、想像以上に速いコーナリングが実現するのです。ここでいう、有効な荷重移動とは、コーナリングに重要なフロントタイヤをグリップさせ、反対に、曲がることへの妨げになる、イン側リアタイヤのグリップを下げることで、よりスムーズに、そしてハイスピードなコーナリングが可能となるということです。
ただし、10のグリップ力をすべて使うことは、タイヤがロックするかしないかの紙一重の部分で、ちょっとリスキーです。イメージ的には、9.9を目指すように努力するといいでしょう。

また、ステアリング、ブレーキいずれにしても、『タテ + ヨコ = 10までの法則』を成立させるには、各操作は唐突ではなく、事前にしっかり準備し「ゆっくり」「ゆったり」が原則となります。ハンドルを突然ギュっと切り込んだり、ブレーキをスパっと離したりする操作は、瞬間的にグリップの限界を超えてしまいますのでNGです。

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